2011年10月3日月曜日

「オリヴィアを探せ」(原 瑠美 書評)

オバケが見える水中眼鏡を手に入れた。眼鏡をかけて水中をのぞくと、魚の幽霊がうようよしている。それを持ってティモシーとワローの兄弟は、死んだ妹を探しにいく。ティモシーは、本当は妹を見つけたくなんかない。もう二年も前に海にさらわれた彼女は今頃どんな姿になっているかわからないし、たとえば脳みその代わりにウナギが骸骨の中で光っていてもおかしくないからだ。しかし毎日オリヴィアを探しに出かける。それがなぜかやめられない。

カレン・ラッセルのデビュー作である本書は、奇怪な物語ばかりを集めた短編集だ。幽霊と駆け落ちしようとする姉を追いかけて月夜に繰り出す少女、歴史上のあらゆる悲劇を夢に見てしまう少年、そして表題作の「狼に育てられた女の子たちの家」では、狼人間の子孫である少女たちが、修道院で厳しい教育を受ける様子がグロテスクな細部にいたるまで語られる。しばしばぞっとさせられるようなお話に、なぜかとても惹きつけられる。ある花屋の店先で、友達が、「ここはきらきらしている」と言っていた。大切に育てられている植物たちが、光を発しているように見えたという。それと同じ感じがする。何かがどこかで光っているような気がして、読みはじめるとやめられない。中でも「ホーンティング・オリヴィア」は、この本の中に散りばめられた光の源に、最も接近できる作品だ。

巨大なカニの甲羅で作ったソリで遊んでいるうちに、小さなオリヴィアが浜辺から姿を消した。十二歳未満の子供をそこで一人で遊ばせてはいけないという決まりだったのに、ワローもティモシーもそれぞれ家でやりたいことがあって、まだ八歳半のオリヴィアを置いてきてしまったのだ。オリヴィアの体は見つからなかった。大人が諦めた後も妹を探し続ける兄弟は、オリヴィアが残した絵をたよりに、ついにここだと思われる場所を見つける。まっくらな洞窟に、発光するミミズが群生している、おそろしいところだ。穴の底には幽霊のオリヴィアがただよっているかもしれないと考えて、ティモシーは身震いする。それでも勇気を出して息を吸い込み、海にもぐった。

暗い海の底でティモシーが出会ったオリヴィアは、曇った水中眼鏡ごしに見える光。なんだか私たちがいつも探しているものに似ている。それはどこにもないかもしれないし、どこにでもあるかもしれない。それでも探し続けるとき、突然見える光がある。

(Karen Russell, St. Lucy’s Home for Girls Raised by Wolves, Vintage Books, 2006.)